ArcGIS Spatial Analyst 10 の新機能
ArcGIS Spatial Analyst Extension には、強力な空間のモデル化と解析の機能が多数あります。ArcGIS 10 の Spatial Analyst では、パフォーマンスと新しいツールが大幅に強化されました。
新しいジオプロセシング ツール
抽出
新しい [複数の抽出値 → ポイント(Extract Multi Values to Points)] ツールでは、入力ポイントのセットに基づいて、複数の入力ラスタ(マルチバンド ラスタを含む)から値を抽出することができます。それぞれのラスタ値は入力フィーチャに属性として追加され、必要に応じて出力名を設定することもできます。これと類似した [抽出値 → ポイント(Extract Values To Points)] ツールが ArcGIS 10 より前のバージョンで提供されていましたが、こちらは一度に 1 つのラスタから値を抽出して、新しい出力フィーチャクラスを作成するだけでした。
多変量解析
新しい多変量解析ツールである、[ISO クラスタの教師なし分類(Iso Cluster Unsupervised Classification)] が導入されました。これは教師なし分類を実行することを目的としています。
オーバーレイ
ファジー論理を使用した複数基準による意思決定のためのオーバーレイ解析を実行する新しい 2 ツールは、[ファジー メンバーシップ(Fuzzy Membership)] と [ファジー オーバーレイ(Fuzzy Overlay)] です。ファジー論理はセット理論に基づいており、現在 Spatial Analyst で利用できる加重オーバーレイおよび加重合計方式の代替となるものですが、すべてのアプローチにおいて適正モデルの実行に非常にうまく適合しています。
ほとんどのオーバーレイ解析では、有意のレイヤを再分類して共通のスケールに変換し、調査対象の現象の最適な場所を特定するために、それらの値をすべて加算したり、重ね合わせ処理します。
[ファジー メンバーシップ(Fuzzy Membership)] ツールでは、指定したファジー関数を使用して、入力データを 0 ~ 1 の範囲のメンバーシップ値にスケーリング(再分類または変換)します。メンバーシップ値は、主観的に定義されたセットへの帰属度を表すもので、値が 1 に近づくほど適合性が高いと見なされます。
[ファジー オーバーレイ(Fuzzy Overlay)] ツールでは、ファジー演算子を使用して複数のファジー メンバーシップの結果を組み合わせ、適地の出力ラスタ データセットなどを作成します。このツールは、最も適合とされるセットの組み合わせに属す可能性が最も高い場所を特定します。適地選定モデルの場合、その場所が最適地となります。
ラスタ演算
新しい [ラスタ演算(Raster Calculator)] ツールは、Spatial Analyst ツールバーにあったこれまでの [ラスタ演算] ツールと [マップ代数演算 単一出力(Single Output Map Algebra)] ツールの両方を置き換えるように設計されています。新しい [ラスタ演算(Raster Calculator)] では、Python 構文を使用してマップ代数演算式を実行します。ModelBuilder 内で使用される場合、[ラスタ演算(Raster Calculator)] は式の中で変数をサポートします。
ゾーン
新しい [ゾーン ヒストグラム(Zonal Histogram)] ツールは、Spatial Analyst のツールバーの元の機能を置き換えるものです。この新しいツールでは、出力の制御機能が向上し、ジオプロセシング ワークフローに簡単に含めることができます。
[ゾーン統計をテーブルに出力(Zonal Statistics as Table)] ツールは新しいパラメータによって更新され、計算対象となる統計情報のタイプの制御機能が向上しています。
マップ代数演算
ArcGIS 10 では、[マップ代数演算] が Python 環境にシームレスに統合され、さらに強力な解析機能とモデリング機能が提供されています。
マップ代数演算の構文そのものは基本的に同じで、わかりやすさや使いやすさが維持されています。一般的に、構文に対するどの変更も、Python によって提供される優れた機能をさらに利用できるようにするものです。
マップ代数演算と Python の統合による目的と利点として、次のようなことが挙げられます。
統合された Python ウィンドウか、各自のお気に入りの Python スクリプト IDE(Interactive Development Environment)からアクセスできます。
完全なオートコンプリート機能によって、式を簡単に作成できます。特に複雑な式の作成に役立ちます。
マップ代数演算では、Spatial Analyst のすべてのツールを利用できます。
算術演算と論理演算の包括的なセットをサポートしています。
個々のツールと演算子を組み合わせて、単一の複雑なステートメントを作成します。
ローカル(セルごと)の式が最適化され、パフォーマンスが向上しています。
特定のパラメータ コレクションに対して Python クラスが用意されており、これによって個々のパラメータに対してオートコンプリートとプログラムによるアクセスが可能になります。次に、一般的な Spatial Analyst クラスのリストを示します。
- 近傍、リマップ テーブル、加重オーバーレイおよび加重合計テーブル、水平/垂直ファクタ、トポ → ラスタ入力、ファジー メンバーシップです。
Spatial Analyst ツールバー
ジオプロセシングによってすべての利点が提供されるようになったので、ArcGIS 10 では、これまで Spatial Analyst ツールバーで利用できていた機能の一部が削除されています。 [コンターの作成] および [ヒストグラム] のインタラクティブ ツールは、これまでどおりツールバーに残っています。
ArcGIS 9.3 と以前の [ラスタ演算] ダイアログ ボックスの代わりに、マップ代数演算式は新しい [ラスタ演算(Raster Calculator)] ツールに入力するか、Python ウィンドウに直接入力することができます。
ネイティブ データの読み取り/書き込み
Spatial Analyst のラスタ演算は、これまでは Esri GRID データセットでのみ実行されていました。指定されたその他の入力/出力形式は、必要に応じて、内部的に GRID に変換されたり戻されていました。同じように、フィーチャ データは内部的にシェープファイル形式に変換されていました。
ArcGIS 10 では変更され、ネイティブ形式の読み取り/書き込み機能が Spatial Analyst エンジンに提供され、データの処理を以前よりも迅速で堅牢に実行できるようになっています。テンポラル ファイルの作成と内部管理がなくなったことで、処理時間とディスク使用量が削減しました。その他の利点には次のものがあります。
- Esri GRID 形式によって課されていたフィールド名とパスの長さ制限がなくなりました。
- 出力をファイル ジオデータベースまたは SDE に書き込むことで、2.1 GB というシェープファイルのサイズ制限を避けることができます。
- 指定された入力および出力形式によってサポートされている場合、日付フィールドの時間の値が保持され、NULL が NULL として処理され、ゼロに変換されることがなくなりました。
もっと技術的なレベルでは、次のようなことがあります。
- 2 つの新しいインタフェース、IRasterAnalysisGlobalEnvironment および IRasterOpBase が ArcGIS 10 によって導入され、ArcObjects を使用して Spatial Analyst でラスタ データを処理できるようになったので、Esri GRID 形式に変換する必要がなくなりました。
- IRasterAnalysisGlobalEnvironment::AvoidDataConversion のデフォルトの False 設定では、実行パスがバージョン 10 より前の ArcGIS と同じになります。
- IRasterAnalysisGlobalEnvironment::AvoidDataConversion の設定を True にすると、すべての処理がラスタおよびフィーチャ データに対してネイティブで実行されます。
- IRasterOpBase インタフェースは、操作が実行される前に出力データとワークスペースの名前を指定するメカニズムを提供しています。これによって、出力が永続的に必要な形式で直接書き込まれます。
パフォーマンスの向上
[フォーカル統計(Focal Statistics)] ツールには、パフォーマンスを大幅に向上させる新しいアルゴリズムが含まれています。特に、12 x 12 以上の四角形の近傍や、半径が 5 以上の円形の近傍など、大規模な近傍を使用している場合に顕著です。このパフォーマンス向上は、ほとんどの近傍タイプと統計タイプに適用されます。その他の統計タイプのパフォーマンスは以前と変わりません。
GRID ラスタ以外でシェープファイル以外のフィーチャ データを入力または出力として使用する場合、Spatial Analyst ツールは一般に、バージョン 9.3.1 よりも高速で実行されます。これは、Spatial Analyst エンジンにネイティブ形式の読み取りおよび書き込み機能が追加された結果です。詳細については、前の「ネイティブ データの読み取り/書き込み」セクションをご参照ください。
画像分類
ArcGIS 10 には、画像分類用の新しいツールバーが、追加されています。[画像分類] ツールバーでは、対話的なツールとジオプロセシング ツールの両方によって、マルチバンド ラスタ データセットの分類を実行できます。
[画像分類] ツールバーのみで、画像分類処理を完結できます。ここで提供される対話的で使いやすいツールによって、教師付き分類に必要なトレーニング サンプルを作成したり評価したりします。多変量解析用のさまざまなジオプロセシング ツールにもアクセスできます。
このツールバーによって、画像分類タスクが高速で簡単になります。
[トレーニング サンプル マネージャ] では、分類の実行を支援する次のような機能が提供されています。
- トレーニング サンプルによって表されるクラスのリスト
- トレーニング サンプルの管理ツール
- クラスのヒストグラム、散布図、統計を作成して表示する複数のトレーニング サンプル評価ツール
- 分類に使用する署名ファイルを作成可能