ArcScan とは

ArcScan は、スキャンしたイメージをベクタベースのフィーチャ レイヤに変換するためのツールを備えています。ラスタ データをベクタ フィーチャに変換する処理をベクタ変換といいます。ベクタ変換は、ラスタ セルを対話的にトレースして手動で行うことも、自動モードを使用して自動で行うこともできます。

ラスタ トレースと呼ばれる対話的なベクタ変換では、マップ内のラスタ セルをトレースしてベクタ フィーチャを作成すします。自動ベクタ変換と呼ばれる自動的なベクタ変換では、指定した設定に基づいてラスタ全体のフィーチャを生成します。

ArcScan エクステンションは、主に、ラスタ イメージをベクタベースのフィーチャ レイヤに変換する必要がある組織で使用されます。今でも、多数の地理情報が紙地図として存在しているため、そのドキュメントを GIS上で扱えるようにするためのツールが不可欠です。従来のドキュメントは、エンジニアリング、測量、地図作成の専門家などによって作成されています。ArcScan では、デジタイジングなどの従来の手法よりも効率的に紙地図などを GIS 上で扱えるよう処理してくれます。

また、ArcScan エクステンションで提供されるツールを使用して、単純なラスタ編集を実行しベクタ変換に最適な状態のラスタ レイヤを準備することもできます。ラスタの前処理と呼ばれるこの処理で、ベクタ変換時に不要なラスタ エレメントを除去します。

ArcScan を使用する前に

ArcScan は、ArcGIS Desktop 製品群のアドオン コンポーネントです。ArcScan は、別個のエクステンションとしてライセンスされ、ArcMap 環境内で動作し、ベクタ変換処理用のツールとコマンドをサポートする独自のユーザ インタフェースを備えています。ArcScan エクステンションを使用するには、他の ArcGIS エクステンションの場合と同様、最初に ArcMap 内で ArcScan エクステンションを有効にする必要があります。ライセンスは ArcGIS で管理され、ライセンスが使用できない場合は、そのことが通知されます。また、マップに [ArcScan] ツールバーを追加して、ベクタ変換ワークフローをサポートするツールとコマンドにアクセスできるようにする必要もあります。

ArcScan はエディタと連動するため、ツールバーをアクティブにするには編集セッションを開始する必要があります。つまり、エディタのツールとコマンドはすべて、ArcScan のツールとコマンドと共に使用できます。ArcScan はスナップ環境、ターゲット テンプレートやレイヤなどのエディタ設定を使用します。

ArcScan では、ArcGIS でサポートされるラスタ形式が 2 層構造のイメージとして表されている限り、どのようなラスタ形式でもベクタ変換できます。ラスタ形式を 2 値イメージで表すには、ラスタ レイヤを独自の 2 色でシンボル化する必要があります。ArcMap の [個別値] または [分類] レンダリング オプションを使用して、ラスタを 2 色に分類できます。通常、スキャンされたドキュメントのほとんどは、前景と背景の値を表す 2 つの色で構成されます。一般的には、前景は暗い色(黒など)で表され、背景は明るい色(白など)で表されます。ただし、これらの色は逆にしたり、別の値で表したりすることもできます。2 つの色がそれぞれ独自の値であれば、現在の前景のラスタ セルのベクタ変換がサポートされます。

ラスタ データをベクタ フィーチャに変換する処理は、ユーザ定義の設定に従って実行されます。それらの設定は、出力ベクタ フィーチャのジオメトリック構成に影響を与えます。対象のデータに最適なベクタ変換設定を決定したら、それらを簡単に保存して再利用することができます。

対話的なベクタ変換(ラスタ トレース)

ラスタ トレースは、ベクタ変換処理を詳細に制御する必要がある場合やイメージのほんの一部をベクタ変換しなければならない場合に便利な機能です。この方法は対話的なベクタ変換と呼ばれ、編集中にフィーチャを作成する既存の手法と似ています。対話的なベクタ変換機能は、複数のコンポーネント(ラスタ スナップ、ラスタ トレース、形状認識)で構成されています。

ラスタ スナップ

ArcScan エクステンションは、ラスタ セルへのスナップ機能をサポートしています。ラスタ スナップは、ラスタ トレースの場合は不要ですが、フィーチャを正確に作成するのに役立ちます。ラスタの中心線、交点、コーナー、端点、およびソリッドへのスナップが可能です。

ラスタ交点へのスナップ
ラスタ交点へのスナップ
ラスタ中心線へのスナップ
ラスタ中心線へのスナップ

ラスタ トレース

[ベクタ変換トレース] ツールでは、ラスタ セルを手動でトレースして、ライン フィーチャまたはポリゴン フィーチャを作成できます。ラスタ トレースをラスタ スナップと共に使用すれば、ラスタ データからベクタ フィーチャへの変換を効果的かつ正確に行うことができます。また、トレースを行う前にベクタ変換設定を調整して、出力ベクタ フィーチャのジオメトリック構成を制御することもできます。トレースによって新しいフィーチャをデータベースに追加したら、トポロジ、高度な編集、アジャストなどの他のツールを利用して、データを必要に応じて修正することができます。

次の図は、ライン フィーチャを作成するために使用される中心線をトレースしています。

ライン フィーチャを作成するために使用される中心線のトレース

[ベクタ変換トレース] ツールを使用すれば、ベクタ変換する方向にカーソルを向けてクリックするだけで済みます。クリックするたびに、ラスタ セルの中心線でフィーチャが生成されます。現在のベクタ変換設定は、出力ベクタ ジオメトリに影響を与えます。ライン フィーチャとポリゴン フィーチャのどちらを生成するか選択することができます。

次の図は、ポリゴン フィーチャを作成するために使用されるラスタ トレースとラスタ スナップです。

ポリゴンを作成するために使用されるラスタ スナップとラスタ トレース

形状認識

[形状認識] ツールを使用して、建物や貯蔵タンクなどの特定の形状のベクタ フィーチャをキャプチャすることもできます。この機能により、キャプチャするラスタ フィーチャを 1 回クリックするだけで、フィーチャを生成することができます。

形状認識

自動ベクタ変換

自動ベクタ変換は、ラスタ データからベクタ フィーチャへの自動で変換する方法です。この処理は、ベクタ変換の実行方法を制御するユーザ入力に依存します。イメージ解像度、イメージ内のノイズの量、およびスキャンされたドキュメントの実際の内容などがすべて要因になって、ベクタ変換の結果に影響します。

ArcScan は 2 つのベクタ変換方法をサポートしています。中心線とアウトラインです。中心線のベクタ変換では、ラスタ ライン エレメントの中心に沿ってベクタ フィーチャが作成されます。アウトラインのベクタ変換では、ラスタ ライン エレメントのアウトラインに沿ってベクタ フィーチャが作成されます。

ラスタで表示されている等高線
ラスタで表示されている等高線
中心線のベクタ変換によって表された等高線
中心線のベクタ変換によって表された等高線

自動ベクタ変換では、出力ベクタ フィーチャの生成方法を設定する必要があります。それらの設定(「スタイル」)は、保存して、同様の特性を持つラスタ イメージに再利用することができます。

ベクタ変換を正常に実行できるかどうかは、スキャンしたドキュメントが変換時にどのような状態かに左右されます。場合によっては、フィーチャを生成する前に、イメージを修正する必要もあります。この修正はラスタの前処理と呼ばれ、ラスタの一部をクリーンナップすることでベクタ変換の範囲を定義しやすくます。ラスタ クリーンナップ ツールを使用すると、これらの各ステップを実行できます。また、ラスタの選択は、ラスタ クリーンナップと共にまたは別々に行っても、ベクタ変換するラスタ セルのみを選択することができます。

元のラスタに対する操作以外で、自動ベクタ変換に最も影響するのは設定です。これらの設定は、ベクタ変換するセルや、出力ベクタ データに適用する頂点間隔やスムージングのレベルを制御します。設定を修正し、その結果をマップ内ですぐにプレビューして、ベクタ変換への影響を確認できます。適切な設定が決まったら、ラスタ レイヤ全体またはその定義した領域をベクタ変換できます。データの作成後、トポロジ、高度な編集、空間アジャストなどの他のエディタ ツールを使用して、データを必要に応じてさらに調整できます。

ラスタ セルの選択

ArcScan ではラスタ セルを選択できます。接続したラスタ セルは、連続して隣あったラスタ ピクセルの集合体です。これは、横一列に並ぶ場合や、対角線上に並ぶ場合もあります。この機能を使用すると、ベクタ変換、エクスポート、除去などのさまざまな操作を行うために、ラスタを部分的に選択できます。

ラスタの選択では、ラスタ データの不要な部分を除外して、重要な部分のみを対象範囲にできます。一連の接続セルをクリックして、または、条件式のクエリを実行して、ラスタを対話的に選択することができます。それらの選択ツールは、ベクタ変換の範囲を定義する際に役立ちます。

ラスタで表示されている等高線
ラスタで表示されている等高線
選択された一連の接続セル
選択された一連の接続セル

[接続セルの選択] ダイアログ ボックスを使用すると、ピクセル領域またはエンベロープの対角線に基づく複雑なセル選択を行うことができます。

選択前のラスタ イメージ
選択前のラスタ イメージ
ピクセル領域に基づくセルの選択
ピクセル領域に基づくセルの選択

ベクタ変換前のラスタ クリーンナップ

ArcScan は、ラスタ イメージを編集するためのツールもサポートしています。ArcMap の編集セッションで、すべてのセルを描画、塗りつぶし、および消去することができます。これらのステップは、ラスタ クリーンナップと呼ばれ、ベクタ変換の対象外のラスタ セルを除去するのに役立ちます。また、元のコピーを保持する必要がある場合は、変更を加えたラスタを新しいファイルにエクスポートすることもできます。

次の図は、クリーンナップ前のイメージとクリーンナップ後のイメージです。

クリーンナップ前のイメージ
クリーンナップ前のイメージ
クリーンナップ後のイメージ
クリーンナップ後のイメージ

関連項目


7/10/2012