PDF へのエクスポート

PDF(Portable Document Format)は、単一の最適化ファイル内のベクタおよびラスタ グラフィックスをサポートする一般的なグラフィックス ファイル形式です。1 つの PDF ファイルに複数のページを収容できます。また、レイヤおよびグラフィックス フィーチャ属性、およびマップ ジオリファレンス情報を保存することもできます。PDF は、地理情報を非 GIS ユーザに公開するために最も広く使用されている方法の 1 つであり、重要なアーカイブおよびハードコピー プレス交換形式です。

大半のコンピュータはすでに Adobe Reader または Adobe Acrobat ソフトウェアをインストールしているため、非 GIS ユーザと確実にマップを交換する必要があるときは、マップを PDF にエクスポートすることを検討すべきです。PDF ファイルが特に便利なのは、画面上に表示するだけでなく、プリンタに出力できるドキュメントを提供したいときです。PDF では、ベクタ グラフィックスと埋め込みフォントを保持できるため、マップのエンド ユーザが高品質の印刷を行うことが可能になります。

シンプルな、自己包含型の対話的なマップ表示操作を可能にしたいときも、PDF を使用すべきです。PDF ドキュメントは、すべてのマップ情報を 1 つのファイルに格納するため、ネットワーク接続を利用できない場所で作業するユーザとコンテンツを共有するための便利な媒体になります。マップ レイヤ情報およびジオリファレンス情報をエクスポートすると、PDF ドキュメントを地理対応にすることができ、その結果、ユーザはマップ コンテンツを操作し、検索できるようになります。

PDF のエクスポートの設定

ArcMap の [マップのエクスポート] ダイアログ ボックスを使用すると、PDF ファイルの作成に使用される設定を管理できます。ほとんどの場合は、デフォルト値を使用すれば使用可能なファイルが作成されますが、エクスポートのオプションを設定して、特定の要件の出力を作成することができます。

解像度

出力画像の出力解像度(dpi)を指定します。通常は、この値が大きいほどイメージが鮮明になります。ファイル サイズと処理時間は大幅に増大します。PDF の場合、デフォルトの解像度は 300 dpi です。

出力画像の品質

[出力画像の品質] コントロールは、マップを印刷またはエクスポートする前にラスタ データをリサンプリングするためのものです。ラスタ データまたは透過ベクタ レイヤを持つマップについては、この値を調整することによって、出力パイプラインを通過するデータ量を大幅に減らしたり、エクスポート時間とファイル サイズを削減することができます。

PDF 形式のオプション

[出力カラースペース] により、出力ファイルに色を指定するための色空間を制御します。RGB はデフォルトであり、画面上の表示と、インクジェットまたはレーザ プリンタへの印刷に適しています。CMYK モードは、出力をプリント ショップに送る、業務用の印刷を対象にしています。PDF のベクタ部分を圧縮して、より小さい出力ファイルを生成する場合は、[ベクタ グラフィックを圧縮] オプションをオンにします。これとは別に、PDF のラスタ部分を圧縮する [イメージ圧縮] オプションもあります。[Adaptive] モードでは、ファイル サイズは最小になりますが、エクスポート イメージに圧縮による副作用が生じる可能性があります。PDF のラスタ画像に可逆圧縮を用いるには、[Deflate] モードを使用します。[すべてのドキュメント フォントを埋め込む] オプションを使用すると、ドキュメント内で使用されるフォントを埋め込むことができます。これにより、プラットフォームにドキュメントのフォントがインストールされていない場合であっても、PDF の表示をサポートする任意のプラットフォーム上で PDF を表示できるようになり、表示に相違点がなくなります。これはデフォルトであり、通常は使用する必要があります。

注意注意:
一部のフォントは埋め込みをサポートせず、このオプションをオンにしても埋め込まれません。

データ ドリブン ページ

PDF では、データ ドリブン ページの PDF 形式へのエクスポートがサポートされます。マップ ドキュメントでデータ ドリブン ページが有効になっていて、ArcMap がレイアウト ビューに設定されている場合は、データ ドリブン ページのエクスポートを制御するオプションに [ページ] タブからアクセスできます。

arcpy.mapping を使用した PDF の設定

arcpy.mapping モジュールは、マップ ドキュメントおよびレイヤを開いて操作できる Python スクリプト ライブラリです。PDF ドキュメントを変更することもできます。arcpy.mapping PDFDocument クラスを使用すると、PDF ページをマージし、PDF ファイルをパスワード保護し、他のファイルを PDF ドキュメントに追加することができます。

arcpy.mapping を使用して PDF ドキュメントをパスワード保護する方法

単純な arcpy.mapping スクリプトを使用して、PDF ドキュメントを暗号化し、パスワードで保護することができます。PDF ドキュメントを暗号化し、サンプル パスワードの secret で保護する手順を以下に示します。

  1. マップを PDF 形式にエクスポートし、ディスク上のエクスポート ファイルの位置をメモします。
  2. メイン メニューから [ジオプロセシング] [Python] の順にクリックして、Python ウィンドウを開きます。
  3. 次のスクリプト テキストをクリップボードにコピーし、Python ウィンドウに貼り付けます。
    pdfDoc = arcpy.mapping.PDFDocumentOpen(r"C:\Project.pdf")
    pdfDoc.updateDocSecurity("secret", "secret")
    pdfDoc.saveAndClose()
    del pdfDoc
  4. ファイル パスのテキスト C:\Project.pdf を、暗号化する PDF ドキュメントのフォルダ位置とファイル名に合わせて変更します。
  5. 必要に応じてスクリプト テキストを変更したら、Python ウィンドウ の一番下の行をクリックし、テキスト挿入カーソルをスクリプトの末尾に移動します。
  6. Enter キーを押してスクリプトを実行し、PDF ドキュメントを暗号化します。

高度な PDF 機能

ArcMap からエクスポートした PDF ファイルには、グラフィックス交換形式としての用途に加えて、高度な機能を含めることができます。PDF ファイルには ArcMap のコンテンツ ウィンドウのレイヤを含めることができるため、ユーザは PDF ページ上のレイヤおよびグラフィック エレメントの表示を有効または無効にすることができます。ArcMap からエクスポートした PDF ファイルには、GIS フィーチャの属性と、マップ データ フレームごとのジオリファレンス情報も含まれています。PDF ドキュメントを Adobe Reader または Adobe Acrobat で表示すると、誰でも Acrobat Analysis ツールを使用してフィーチャ属性を調べ、地理座標を検索して確認することができます。以下のセクションでは、これらの高度な機能とその使用方法について説明します。

PDF レイヤ

ArcMap をエクスポートした PDF にはレイヤを含めることができるため、PDF 表示アプリケーションでレイヤの表示を制御することができます。エクスポートした PDF でレイヤを有効にするには、[マップのエクスポート] ダイアログ ボックスの [高度な設定] タブの [レイヤと属性] ドロップダウン メニューで、[PDF レイヤのみエクスポート] オプションまたは [PDF レイヤとフィーチャの属性をエクスポート] オプションを選択します。

[エクスポート] ダイアログ ボックスの [高度な設定] タブの [PDF レイヤのみエクスポート] オプション
[PDF レイヤのみエクスポート] オプションを指定すると、PDF レイヤは追加されますが、属性は追加されません。

ほとんどの ArcMap コンテンツ ウィンドウ レイヤ、データ フレーム、およびレイアウト エレメントは、個別のレイヤとしてエクスポート ファイルに組み込まれます。ただし、ある種のシンボルは、最終的な PDF でのレイヤのプレゼンテーションに影響を与える場合があります。ArcMap 内から PDF レイヤが作成された状態の概要は次の図をご参照ください。

この図は、ArcMap のコンテンツ ウィンドウ(右側)と PDF レイヤ(左側)の相関関係を示しています。

次に、ArcMap から PDF レイヤが作成される際のいくつかの事実とヒントを示します。

  • PDF のツリー ビューでは各データ フレームに対してフォルダが 1 つ設定され、そのデータ フレームに関連するすべてのレイヤとデータ フレーム グラフィックス(図郭線や背景)が収められます。
  • レイアウトに追加されたテキスト、ピクチャ、方位記号の各エレメントは、「Other」という名前のレイヤの一部になります。このレイヤには、データ フレームの一部ではないすべてのグラフィックスと傍注が含まれます。
  • 各グループ レイヤはツリー ビューではフォルダとして表され、グループ レイヤの内容はグループ レイヤ内に表示されます。
  • ラスタ化の原因になる透過レイヤなどのレイヤ、またはピクチャ塗りつぶしシンボルを使用するレイヤがある場合、その下にあるすべてのレイヤが「Image」という名前の単一のレイヤに統合されます。
  • レイヤにピクチャ マーカーまたはピクチャ塗りつぶしシンボルが含まれる場合は、[オプション] パネルの [形式] タブにある [ビットマップ マーカー/塗りつぶし レイヤをベクタ化] オプションを使用します。このオプションを使用すると、ピクチャ マーカーおよび塗りつぶしの下にあるレイヤがラスタ化されなくなります。
  • オルソ画像などのラスタ レイヤがある場合、その下にあるすべてのレイヤが単一の Image レイヤに統合されます。この問題を防ぐには、ラスタ レイヤを ArcMap のコンテンツ ウィンドウの下位に置きます。
  • データ ビューからデータ フレームのデフォルト グラフィックス レイヤに追加されたグラフィック エレメントまたはテキスト エレメントは、「<デフォルト>」という名前のレイヤになります。これらは、そのデータ フレーム内のレイヤの上に表示されます。複数のアノテーション グループがあり([図形描画] ツールバーの [図形の調整] [作業中のアノテーションの保存先] を参照)、その内容がデータ ビュー内にある場合は、各アノテーション グループが <デフォルト> レイヤ上で個別のレイヤになります。データ ビュー内の特定のフィーチャを強調またはマスクするフォーカス領域またはグラフィックスを追加する場合、この方法が適しています。
  • データ フレームに追加された背景または影は、個別のグラフィック エレメントになり、グラフィックスとして複数回レンダリングされる場合があります。たとえば、データ フレームにカラーの背景があり、レイアウトには別のカラー背景がある場合、データ フレームの背景がデータ フレームの Graphics または ArcGIS Layer に 1 回レンダリングされ、レイアウトの Graphics レイヤまたは ArcGIS Layer に再度レンダリングされる場合があります。
  • 各データ フレームの(アノテーションを使用しない)ダイナミック ラベルは、「ラベル」という名前のレイヤの一部として別にレンダリングされます。
  • ジオデータベース アノテーションは、PDF では個別のレイヤとして表示されます。マップ アノテーションは、属しているアノテーション グループのレイヤに統合されます。
  • ラベルがアノテーションに変換されるときは、固有の名前のアノテーション グループに自動的に入れられるので、<デフォルト> グループとは別にレンダリングされます。
  • データ フレームおよびその他のレイアウト エレメントは、PDF にエクスポートされる際、描画順序でレンダリングされます。したがって、マップで最上位のレイアウト エレメントが、エクスポート後の PDF のコンテンツ ウィンドウで最初のエレメントになります。レイアウト エレメントの描画順序を変更するには、[図形描画] ツールバーの [前面へ移動] および [背面へ移動] コマンドを使用します。

PDF 属性

ArcGIS からエクスポートした PDF ファイルには、Adobe Acrobat および Adobe Reader に組み込まれている機能を使用して、フィーチャの属性テーブルから得られるフィーチャ属性を含めることができます。このオプションを有効にするには、[マップのエクスポート] ダイアログ ボックスの [高度な設定] タブで [PDF レイヤとフィーチャの属性をエクスポート] オプションを選択します。

[エクスポート] ダイアログ ボックスの [高度な設定] タブの [PDF レイヤとフィーチャの属性をエクスポート] オプション
[PDF レイヤとフィーチャの属性をエクスポート] オプションをオンにすると、レイヤがエクスポートされるとともに、各レイヤについて [レイヤ プロパティ] ダイアログ ボックスの [フィールド] タブで選択したオプションに基づいて属性もエクスポートされます。

フィーチャの属性テーブルにおけるフィールドの表示設定によって、PDF にエクスポートされるフィールドが決まります。フィールドのオンとオフを切り替えるには、[レイヤ プロパティ] ダイアログ ボックスの [フィールド] タブを使用します。このチェックボックスのオン/オフによって、そのフィールドの表示が決定します。チェックボックスをオン/オフすることで、PDF に表示される属性を増やしたり減らしたりできます。

[レイヤ プロパティ] ダイアログ ボックスの [フィールド] タブ
属性テーブル フィールドの表示を示した [レイヤ プロパティ] ダイアログ ボックスの [フィールド] タブ

または、[テーブル] ウィンドウで、列の見出しを右クリックして [フィールドを非表示] オプションを選択することでも、フィールドの表示を制御できます。

[属性] ビューの [フィールドを非表示] ショートカット メニュー
[フィールドを非表示] ショートカット メニュー オプションにはフィールド表示の切り替えもあり、PDF 属性へのエクスポートを無効にできます。
注意注意:
属性を PDF にエクスポートすると、互換性のある PDF ビューアでパフォーマンスの問題が発生する可能性があります。可能であれば、エクスポートするフィールドは各マップにつき 1 レイヤに制限してください。フィールドがエクスポートされないようにするには、[レイヤ プロパティ] ダイアログ ボックスでフィールドの表示をオフにします。

エクスポートした PDF を使用するユーザは、[オブジェクトデータツール] ツールを使用して Adobe Acrobat および Adobe Reader でこれらの属性にアクセスできます([ツール] [オブジェクトデータツール] の順に表示するか、いずれかのプログラムで [モデルツリー] ビューを有効にしてください)。

PDF マップ ジオリファレンス

Adobe Acrobat および Adobe Reader のバージョン 9 以降では、PDF ファイル内でエンコードされたマップの座標とジオリファレンス情報を表示することができます。[マップのジオリファレンス情報を出力] オプションを有効にしてマップをエクスポートすると、各データ フレームのジオリファレンス情報が PDF 内に記録されます。ジオリファレンスされた PDF を、Adobe Reader 9 などの互換性のあるビューアで開くと、座標値の表示や X、Y の検出などの地理空間機能にアクセスできます。

[マップのエクスポート] ダイアログ ボックスの [高度な設定] タブの [マップのジオリファレンス情報を出力] チェックボックス
[マップのエクスポート] ダイアログ ボックスの [高度な設定] タブの [マップのジオリファレンス情報を出力] チェックボックス
注意注意:

Adobe Acrobat および Adobe Reader のユーザが利用できる地理空間機能は、使用している Acrobat 9 製品によって異なります。ArcMap からエクスポートした PDF を無償の Adobe Reader 9 製品で直接使用する場合は、座標値の表示および X、Y の検出のツールを使用できます。同じ PDF を有償の Acrobat 製品で開くと、拡張版の地理空間ツールセットが提供されます。これには、座標値の表示、X、Y の検出、測地計測、ジオリファレンス マークアップなどのツールが含まれます。PDF を Adobe Acrobat 9 Pro または Pro Extended に再保存すると、これと同じ拡張版のツールセットが無償の Adobe Reader から利用可能になります。再保存するには、それらのプログラムで [Adobe Reader で拡張機能を有効にする] コマンドを使用します。PDF で Adobe Reader の拡張機能を利用できるのは、Adobe Systems が提供する Adobe Acrobat Pro などのソフトウェアの場合に限られており、ArcMap では実行できません。

PDF ファイル内に保存されたジオリファレンス情報には、ページ レイアウトのデータ フレームごとの情報として、データ フレームの境界のコーナー座標(緯度と経度および PDF ページ単位(ポイント)の両方)、およびデータ フレーム プロパティの座標系オプションに指定されたデータ フレームの座標系を説明した文字列が含まれます。この情報は、Adobe Reader または Adobe Acrobat で使用するために PDF ファイルの内部ストリームに保存され、ユーザはその生のデータを参照できません。マップをレイアウト ビューではなくデータ ビューからエクスポートすると、PDF には 1 つのマップ イメージとともに、対応するジオリファレンス情報が入ります。

ジオリファレンス情報を持つ PDF ファイルは、以前のバージョン(Acrobat 9 より前)の Adobe Acrobat および Adobe Reader との互換性を維持しています。ファイルは問題なく開くことができますが、座標関連の機能は利用できません。ジオリファレンス オプションを有効にして PDF にエクスポートしても、パフォーマンスに悪影響を与えることはありません。このオプションをオンにしてもオフにしても、エクスポートに要する時間は同じです。これらの事実を考慮に入れた上で、すべてのマップのエクスポートでこのオプションを有効にすることができます。ただし、ジオリファレンス情報を PDF ファイルに含めたくない場合は、[マップのジオリファレンス情報を出力] チェックボックスをオフにして、ジオリファレンス情報のエクスポートを停止してください。

関連項目


7/10/2012