トポ → ラスタ(Topo to Raster)の仕組み
[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] ツールは、水文学的に正しいデジタル標高モデル(DEM)を作成する目的で設計された内挿法です。Michael Hutchinson(1988、1989)が開発した ANUDEM プログラムを基にしています。ANUDEM の本質的なアプリケーション例と関連する参考文献については、Hutchinson と Dowling の文献(1991)をご参照ください。ANUDEM の概略といくつかのアプリケーションは、Hutchinson の文献(1993)に記載されています。ArcGIS で使用されている現在のバージョンは 4.6.3 です。
[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] では、標高値を内挿する際、次の制約が適用されます。
- 接続する排水構造を維持する
- 入力コンター データから、尾根と河川を正しく表現する
このように、コンター入力を適切に処理するように設計された ArcGIS の唯一の内挿機能です。
[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] ツールを複数回実行する場合は、代わりに [トポ → ラスタ(ファイルによる定義)(Topo to Raster by File)] ツールが役立ちます。一般に、パラメータを毎回設定し直すより、パラメータ ファイルのエントリを 1 つだけ変更してツールを再実行した方が簡単です。
内挿プロセス
内挿手順は、一般的に利用できる入力データのタイプ、および標高サーフェスの既知の特性を活用するように設計されています。この方法では、反復的な有限差分内挿手法を使用します。これは、IDW 内挿法などの内挿法の演算効率を有し、クリギングやスプラインなどのように、グローバルな内挿法のサーフェスの連続性を失うことがありません。これは離散化した薄板スプライン手法(Wahba、1990)で、近似 DEM が河川や尾根などの地表の急激な変化に沿うように、粗さのペナルティが修正されています。
水は、多くの一般的な地形を決定する主要な侵食力です。このため、ほとんどの地形には、多数の高地(ローカルな最大値)とわずかなシンク(ローカルな最小値)があり、この結果、連続する排水パターンが得られます。[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] は、サーフェスに関するこの情報を使用し、連続する流路構造、および尾根と河川を正確に表す制約を内挿プロセスに加えます。この排水条件を加えることにより、少ない入力データで精度の高いサーフェスが得られます。入力データの個数は、デジタル化したコンターを持つサーフェスを適切に表すために通常必要な個数よりも最大 1 桁少なくて済み、信頼性の高い DEM の取得に必要なコストをさらに削減します。また、このグローバルな排水条件により、生成したサーフェスから偽のシンクを除去する編集や後処理の必要性が事実上なくなります。
プログラムはシンクの除去で控えめに動作し、入力する標高データと矛盾する位置では排水条件を加えません。このような位置は通常、診断ファイルにシンクとして表示されます。この情報を使用して、特に大きいデータセットを処理するときに、データのエラーを補正します。
強制的な排水のプロセス
強制的な排水のプロセスの目的は、入力シンク フィーチャ データセットの範囲にシンクとして示されていないシンク ポイントをすべて、出力 DEM から除去することです。天然の地形では一般的にシンクはまれなので、プログラムでは、未指定のシンクはすべてエラーと見なされます(Goodchild と Mark、1987)。
強制的な排水のアルゴリズムは、個々の偽のシンクを囲む排水エリアにある標高が最も低い鞍点から排水ラインを推定して、DEM を修正することにより、偽のシンクを除去しようとします。Sink 関数で指定された実在するシンクは除去しません。シンクの除去は標高の許容差の影響を受けるので、偽のシンクを除去しようとするときには、プログラムは控えめに動作します。言い換えると、[許容値 1] の値を超える入力の標高データと矛盾する偽のシンクは除去されません。
また、強制的な排水は、組み込まれた河川のライン データでも補足されます。河川の正確な位置が必要な場合に役立ちます。
強制的な排水はオフにすることができ、この場合、シンクの除去プロセスは無視されます。サーフェスの作成に標高以外のコンター データ(温度など)を使用する場合に便利です。
コンター データの使用法
コンターは当初、標高情報を保存して表現する最も一般的な方法でした。残念ながら、この方法は、一般的な内挿法を適切に活用するのが最も困難な方法でもあります。この短所は、特に起伏の小さいエリアで、コンター間の情報のサンプリング量が少ないことに起因しています。
内挿プロセスの初めに、[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] はコンターに固有の情報を使用して、ジェネラライズされた排水モデルを作成します。各コンターで局所最大曲率を持つエリアを特定することにより、最大傾斜を持つエリアが特定され、河川ネットワークと尾根が作成されます(Hutchinson、1988)。この情報は、出力 DEM が適切な水文プロパティを確実に持つように使用されます。また、出力 DEM の精度の検証にも使用されることがあります。
サーフェスの一般的な形態の決定後、コンター データは各セルの標高値の内挿にも使用されます。
標高情報を内挿するためにコンター データを使用するときには、すべてのコンター データが読み取られてジェネラライズされます。これらのコンターから、各セル内の最大 50 個のデータ ポイントが読み取られます。最終的な解像度では、各セルについて重要なポイント 1 つが使用されます。このため、出力セルと複数のコンターが交差するコンター密度は冗長です。
多解像度の内挿
このプログラムは、解像度の低いラスタから始めて、ユーザ指定の高い解像度へ進めていく多解像度の内挿法を使用します。各解像度で、排水条件を強制して内挿を実行し、残っているシンクの個数が出力診断ファイルに記録されます。
河川データの処理
[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] ツールでは、河川ネットワーク データに下り傾斜を示すすべてのアークがあり、かつネットワーク内にポリゴン(湖)や網状の河川がないことが条件となります。
河川データは樹状パターンの単一の弧で構成する必要があり、網状の河川、並行する河川の土手、湖のポリゴンなどを、対話的編集で除去する必要があります。編集により湖のポリゴンをネットワークから除去する際、除去するエリアの起点から終点を結ぶ単一の弧を配置する必要があります。この弧は、河床の履歴が既知の場合、または河床が現在ある場合は、そのパスに沿う必要があります。湖の標高が既知の場合は、湖のポリゴンとその標高を CONTOUR の入力として使用できます。
ライン部分の方向を表示するには、[Symbology to the Arrow at End] オプションを変更します。これにより、ラインの方向を示す矢印シンボルにより、ライン部分が作図されます。
隣接ラスタの作成とモザイク処理
入力データの隣接タイルから DEM の作成が必要な場合があります。通常、入力フィーチャが一連のマップ シートから得られたものである場合や、メモリの制限により入力データを複数に分割して処理する必要がある場合に、この状況が発生します。
内挿プロセスは周囲エリアの入力データを使用して、サーフェスの形状と排水を定義し、次に出力値を内挿します。ただし、出力 DEM の端部分のセル値は 1/2 の情報で内挿されるため、中央部分ほど信頼性が高くありません。
対象地域のエッジを高い精度で推定するには、入力データセットの範囲が対象地域よりも大きい必要があります。[セルのマージン] パラメータは、ユーザ指定の距離に基づいて、出力 DEM のエッジをトリムする方法です。重なり合うエリアのエッジの幅は、20 セル以上必要です。
出力の DEM を単一ラスタに統合するときには、隣接エリアと重なる入力データの部分が必要です。この重なりがない場合、統合した DEM のエッジがスムーズにならない可能性があります。単一の内挿を実行した場合より、各内挿から入力データセットまでの範囲に大きな領域が含まれ、エッジをできるだけ正確に推測できるようになります。
作成した DEM は、[モザイク(Mosaic)] ジオプロセシング ツールの [ブレンド] または [平均値] のオプションを使用して結合できます。この機能では、重なり合うエリアを処理して、データセット間の変化をスムーズにできます。
出力の評価
作成した各サーフェスについて、プログラムに指定したデータとパラメータによりサーフェスの現実的な表現が得られたことを評価する必要があります。サーフェスの作成に利用できる入力のタイプにより、多数の方法で出力サーフェスを評価できます。
最も一般的な評価方法は、[コンター(Contour)] ツールを使用して新しいサーフェスからコンターを作成し、入力したコンター データと比較することです。元のコンターの半分の間隔で新しいコンターを作成し、それらのコンターの結果を調べることをお勧めします。元のコンターと新規作成したコンターを重ねると、内挿エラーの特定に役立ちます。
別の視覚的な比較方法は、オプションの出力排水範囲を既知の河川や尾根と比較することです。排水フィーチャクラスには、強制的な排水のプロセスでプログラムにより生成された河川と尾根が含まれています。これらの河川と尾根は、そのエリアの既知の河川や尾根と一致する必要があります。河川フィーチャクラスを入力データとして使用した場合は、出力の河川はわずかにジェネラライズされているとしても、入力の河川とほぼ同じに重なり合う必要があります。
生成したサーフェスの品質を評価する一般的な方法は、内挿プロセスから入力データの割合を差し引くことです。サーフェスの生成後、生成したサーフェスからこれらの既知のポイントの高さを減算して、新しいサーフェスが真のサーフェスにどの程度近いかを調べることができます。これらの差を使用して、二乗平均平方根(RMS)誤差の尺度を計算できます。
オプションの診断ファイルを使用して、入力データからのシンクの除去に対する許容値の設定の効果を評価できます。許容値を小さくすることで、シンク除去でプログラムを一層控えめに実行できます。
コンターのバイアス
内挿アルゴリズムには小さいバイアスがあり、入力コンターは、出力サーフェスのコンターに大きい影響を与えます。このバイアスにより、出力サーフェスがコンターと交差する位置が多少平坦になることがあります。出力サーフェスのプロファイル曲率を計算するときに、この影響により結果が偏ることがありますが、それ以外の場合は無視できます。
トポ → ラスタの問題の原因
[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] の実行時に問題が生じた場合、次のよくある問題に対する説明と解決方法のポイントを確認してください。
- 利用可能なシステム リソースが不足しています。[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] で使用されるアルゴリズムは、処理中にできる限り多くの情報をメモリに保持します。これにより、ポイント、コンター、シンク、河川、および湖のデータに同時にアクセスできます。サイズの大きいデータセットの処理を容易にするため、このツールを実行する前に不要なアプリケーションを閉じて物理 RAM を解放することをお勧めします。また、ディスク上に十分なシステム スワップ容量があることが重要です。
- 指定した出力セル サイズに対して、コンターまたはポイントの入力の密度が高すぎることがあります。1 つの出力セルが複数のコンターまたはポイントの入力データをカバーする場合、アルゴリズムでそのセルの値を確定できないことがあります。この問題を解決するには、次のいずれかを試してみます。
- セル サイズを縮小し、次に、[トポ → ラスタ(Topo to Raster)] の後にリサンプリングで大きいセル サイズに戻します。
- [出力範囲] と [セルのマージン] を使用して、入力データの小さい範囲ごとにラスタ化します。[モザイク(Mosaic)] ツールで、クリップしたラスタ同士を再構成します。
- 入力データをオーバーラップしている部分でクリップし、各部分について個別に [トポ → ラスタ(Topo to Raster)] を実行します。[モザイク(Mosaic)] ツールで、クリップしたラスタ同士を再構成します。
- サーフェス内挿のアプリケーションが、入力データセットと矛盾していることがあります。たとえば、シンク入力に、出力ラスタのセル数よりも多くのポイントがある場合、このツールは失敗します。LIDAR データのようにサンプリング密度の高いデータ ソースで、同様の問題がある可能性があります。この場合、NO_ENFORCE オプションが役に立つことがありますが、誤用を防ぐには内挿機能が動作する仕組みを適切に理解することが重要です。
参考文献
Goodchild, M. F., and D. M. Mark. 1987. The fractal nature of geographic phenomena.Annals of Association of American Geographers. 77 (2): 265–278.
Hutchinson, M. F. 1988. Calculation of hydrologically sound digital elevation models.オーストラリア国シドニーの Third International Symposium on Spatial Data Handling で発表された論文。
Hutchinson, M. F. 1989. A new procedure for gridding elevation and stream line data with automatic removal of spurious pits.Journal of Hydrology, 106: 211–232.
Hutchinson, M. F., and T. I. Dowling. 1991. A continental hydrological assessment of a new grid-based digital elevation model of Australia.Hydrological Processes 5: 45–58.
Hutchinson, M. F. 1993. Development of a continent-wide DEM with applications to terrain and climate analysis.In Environmental Modeling with GIS, ed. M. F. Goodchild et al., 392 – 399. New York:Oxford University Press.
Hutchinson, M. F. 1996. A locally adaptive approach to the interpolation of digital elevation models.Third International Conference/Workshop on Integrating GIS and Environmental Modeling の議事録。Santa Barbara, CA:National Center for Geographic Information and Analysis.参照ファイル: http://www.ncgia.ucsb.edu/conf/SANTA_FE_CD-ROM/sf_papers/hutchinson_michael_dem/local.html.
Wahba, G. 1990. Spline models for Observational data.Paper presented at CBMS-NSF Regional Conference Series in Applied Mathematics.Philadelphia:Soc. Ind. Appl. Maths.